ワーケーション導入企業の事例と導入するメリット・デメリット

ワーケーション-導入企業

働き方改革の一環として注目をされるようになってきたことで、大手企業を中心に導入されている「ワーケーション」。ワーケーションの拡大に向けて受け入れに積極的な自治体もあることから、今後も新しい働き方としてますます注目されることが見込まれています。しかし、ワーケーションを制度として導入する際、企業にとってどのようにして取り入れるのが効果的なのでしょうか。今回は、企業がワーケーションを導入する際の目的や、メリットデメリットのほか、現在ワーケーションを導入している企業一覧を紹介します。

企業がワーケーションを導入する目的

近年、働く人々のライフスタイルや価値観が大きく変わり、ワーケーションは「時間」や「場所」に捉われず、柔軟に対応できる新しい働き方として、実践企業が増えることが期待されています。しかし、「ワーケーション」という言葉が知られるようになってからは日が浅く、まだ企業が導入する制度として定着しているとは言えません。

このような状況で、いち早くワーケーションに取り組む企業では、どのようなことに期待して導入を決めたのでしょうか。

観光庁が実施した、「新たな旅のスタイル」に関する企業向けアンケート調査によると、企業がワーケーションを導入する目的は「心身のリフレッシュによる仕事の品質と効率の向上」「 多様な働き環境の提供」など、福利厚生の観点での理由に多くの回答が集まりました。一方で、社員の育成や新規事業開発など、ワーケーションを経営戦略の一環と考える企業も一定数あり、ワーケーションを企業成長につなげていきたい考えもあることがわかります。

■企業のワーケーションの導入の目的と期待【単位:サンプル数(%)】

回答 割合
心身のリフレッシュによる仕事の品質と効率の向上 88.9%
多様な働き環境の提供 88.9%
優秀な人材の雇用確保 55.6%
有給休暇取得率の向上 44.4%
優秀な新卒社員や若手社員の採用および定着率の向上 33.3%
自己成長および会社への貢献 33.3%
隙時間(待ち時間など)を有効活用 22.2%
社員同士による交流の場を創出し、社員間の関係性を深め一体感の醸成 22.2%
コワーキングスペース等での他企業、他業種との情報交換や人脈形成 11.1%
地域関係者との交流による地域の課題の発見・解決による、地域活性化への貢献 11.1%

このような中、厚生労働省が2021年3月に「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」を改定し、ワーケーションの位置づけや、実施の指針が発表されました。これまで労務管理や労災、費用負担などのルール整備がしにくいことから、ワーケーションの導入には踏み出せなかった企業にとっては、導入のハードルが低くなり、今後の導入率も高まっていくと予想されています。

ワーケーションを導入するメリット・デメリット

実際にワーケーションを導入することで、どのような効果が得られるのでしょうか。導入企業が実際に感じたメリットや懸念するデメリットを見ていきましょう。

メリット

ワーケーションを導入した企業では、以下のことをメリットとして感じています。

  • 有給休暇の取得率が向上した
  • 社員の仕事へのモチベーションアップにより、生産性が向上した
  • 採用力の担保ができた
  • 社内のコミュニケーションが活発になった
  • 社員のウェルネスが向上した

ワーケーションという働き方は、社員にとってより柔軟で自由な働き方を実現するものです。そうした経験や体験ができる機会を取り入れることで、結果的に企業にも大きなメリットとして返ってきます。普段のオフィスとはまったく違った環境で仕事をすることで、視野が広がったり、その地域での新しい出会いがあったりと、今後のビジネス発展に役立つつながりが生まれることも期待できるでしょう。

デメリット

ワーケーションを実施した企業の多くが、何かしらのメリットを感じている一方で、一般的にはどのようなことがデメリットと考えられているのでしょうか。

  • オフィス出社の社員とのコミュニケーションが取りにくい
  • 実際の労働時間が把握しにくい
  • 機密情報の取り扱いに注意が必要

在宅勤務やテレワークが普及しつつありますが、中にはオフィス出社を前提とする企業もあるでしょう。その場合、はじめは遠隔でのコミュニケーションに慣れず、意思疎通が難しいと感じることもあるかもしれません。また出社時とは違い、社員が上司の目の前で仕事をしているわけではないため、勤怠管理や情報漏えいに備えた対策などは、予めルールを整備しておく必要があります。

ワーケーションの導入企業事例

ここからは、ワーケーションを企業がどのように取り入れているのかを紹介します。それぞれの取り入れ方や効果などを参考に、導入方法を検討してみましょう。

日本航空株式会社

現場部門と間接部門の有給休暇取得率が、アンバランスだったことが課題だった日本航空株式会社(JAL)。特に低かった間接部門社員の有給取得率の改善を目的に、2017年から「休暇型」のワーケーションを導入しました。休暇利用中のテレワークを可能とすることで、「休暇復帰後に業務が溜まっていることへの不安」や「長期休暇を取ること自体への抵抗感」など、社員の不安を軽減。結果的に、有給休暇取得率も向上したようです。

また「休暇目的」という位置づけで導入しているため、労務管理では業務の時間より休暇の時間を多くするなど工夫した他、ワーケーション実施日は始終業時間の報告、実施後には勤怠管理システムへの登録と業務の進捗状況の共有も行っています。

ユニリーバ・ジャパン

ユニリーバ・ジャパンでは、2016年から働く場所や時間を社員が自由に選べる働き方「WAA(ワー)」の導入をスタートしました。上司に申請して業務上の支障がなければ、理由を問わず会社以外の場所で仕事ができる制度で、工場のオペレーター業務を除く全社員を対象としています。「WAA」がスタートして5年が経とうとする現在の実施率はほぼ100%に到達しています。

この制度で得られた効果は、社員の会社に対する愛着心や貢献意欲の他、仕事へのモチベーションの向上。実際にワーケーションを体験した社員からも、「自分で使っていく時間を主体的に選択できるようになったことで人生が変わった」「余計なストレスが軽減し、より仕事への意欲が増した」など、高評価を得ています。

また、2019年7月には「地域 de WAA」を導入し、8つの自治体と連携してワーケーションと地域創生を組み合わせた取り組みも実施しており、地域に根差した新しいイノベーションやビジネスモデルの創出につながっています。

株式会社野村総合研究所(NRI)

2017年に株式会社野村総合研究所が導入するワーケーションは、社員のモチベーション維持と、働く環境が変わったことで得た「気づき」や「発見」をイノベーション創出につなげる目的で導入されました。通称「三好キャンプ」と呼ばれており、徳島県三好市にある古民家をサテライトオフィス兼宿泊場所とし、1カ月間の中期滞在型キャンプを年に3回実施しています。キャンプ期間中は、平日は業務、週末は休暇というスタイルで生活し、2019年の時点で延べ60名余りの社員が参加しました。

参加した社員からは、「考え方やが変わった」という声をはじめ、「時間の使い方を考え直そうと思った」「地方に対する課題に対して視野が広がった」などの声が聞かれ、社員の成長の大きさを効果として感じているようです。

日本マイクロソフト株式会社

改めて「ワーケーション」という制度を作らずに、働き方の一つとして取り入れているのが特徴的なマイクロソフト株式会社。もともと「日常」と「特別」を分けた考えがなく、制度設計からさまざまな選択ができる職場環境を作っています。

2012年~2016年には、「テレワークの日/週間」を実施し、その期間は会社以外の場所で働くことを義務づけ、社内へのテレワークの浸透に取り組みました。その上で、「働く場所は国内で業務可能な場所であればどこでもOK」、労働時間や時間帯も「総労働時間過多にならず、深夜や休日の勤務などを行なわなければ、社員が自由に設定可能」などの内容を明記した就業規則に改定。これにより、社員は自分の判断で臨機応変な働き方ができるようになり、結果としてワーケーションのような働き方をする社員も出てきたそうです。

働き方改革に取り組むという意識を持たずに、「いつでもどこでも誰とでもコラボレーション」をルールとした取り組みが、経営者と社員と人事管理の3つがトリプルWinの関係性を作り、企業競争力の高まりにもつながっています。

株式会社セールスフォース・ドットコム

セールスフォース・ドットコムは、ビジネスの東京一極集中という社内の課題を解決するとともに、日本の地方創生を推進するためにワーケーションを導入。2015年に総務省の地域実証事業に参画し、南紀白浜にサテライトオフィスを開設しました。ジョブ型への転換期を迎えたことで、適切な人事評価制度の仕方が課題になる中、時間ではなく成果を見て仕事を進める制度設計ができれば、場所や時間は厳しく管理する必要はないという考えを持っています。

サテライトオフィスは社員個人のキャリアプランによって自主的に利用することが可能で、生産性は東京オフィスと比べて20%高いという結果も出ています。また、通勤時間の削減が積み重なることで、家族時間や自己研鑽の時間などに使う、社員の自由時間が増加。向上したモチベーションが仕事に転換され、生産性向上につながっています。

サイボウズ株式会社

「ワーケーション」という概念を改めて持たずに、働き方をフレキシブルする取り組みとして、「働く時間」の改革からスタートしたサイボウズ株式会社。東日本大震後に社員全員が在宅勤務にチャレンジをしたことをきっかけに、リモートワークは緊急事態の際の代替案として有効なことを実感し、その後「働く時間」に加えて「働く場所」もフレキシブルにする仕組みづくりを積極的に実施しました。

一番の効果は採用の幅が広がったことで、中途採用の増強や多様なバックグラウンドを持つ人材の採用にもつながっています。

ランサーズ株式会社

「ランサーズ株式会社」では、以前から働く場所に制限を設けておらず、会社で決めているルールに則れば「ワーケーション」という働き方も可能な環境を作っています。実際、世界一周旅行しながら働く社員など、「時間と場所にとらわれない働き方」を実践している社員が数多くいるそうです。

2017年には、自社社員向けのワーケーション制度「社員さすらいワーク制度」を開始し、社員に地域でのテレワークを推奨。社員はワーケーション・テレワークをしながら、「新しい働き方講座」へ参加し、地域の方との交流も体験しています。参加した社員からは、「リフレッシュできた」などの声が聞かれた他、地域の課題発見やモチベーション向上といった効果もあったようです。

株式会社LIFULL

「株式会社LIFULL」では、宿泊機能が備わった多拠点コワーキング施設「Living Anywhere Commons」を現在全国13拠点に展開しています。地域在住のコミュニティーマネージャーを通じた企画や交流が特徴で、場所に縛られない自由な働き方や暮らし方の実現を目指し、取り組んでいます。

リモートワークなどで自由な場所で働ける環境にした結果、採用力の担保につながり、「自分らしく働けるライフルさんに関わりたい」と言ってくれる学生も増加しました。

株式会社内田洋行

「熱中小学校」という学校の跡地を活用した地方創生の取り組みを行う株式会社内田洋行。宮城県丸森町で、「丸森ヘルスケアワーケーション」という実証実験に参加し、森林療法を実践しながら、時間有休など取り入れた働き方を1週間実施しました。

その結果、社員のウェルネス向上の他、社員同士のコミュニケーション増加という効果を大きく感じ、ワーケーションはチームビルディングにも効果があると実感したようです。

ワーケーション導入は企業価値の向上にも有効

「ワーケーション」を制度として導入する以外にも、在宅勤務やテレワークなどと同様に、多様な働き方を推進する取り組みの一つとして実施する企業もありました。新しい働き方としても注目されているワーケーションには、社員だけでなく企業側にも採用力の担保や企業の存続につながるなど、さまざまなメリットがあります。

「働く」をより柔軟にすることは、企業価値向上にもつながります。まずは自社の課題解決につながる方法で、小さなワーケーションから取り入れてみてはいかがでしょうか。

【参照ページ】観光庁新たな旅のスタイル ワーケーション&ブレジャー
【参照ページ】ランサーズテレワーク推進の一環として、「社員さすらいワーク制度」を開始
【参照ページ】LOHAIワーケーションで何が変わる?ランサーズ「社員さすらいワーク」レポート
【参照ページ】FUTURE IS NOW第2回 ワーケーション拠点としての未来

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Livhub 編集部

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