実家や相続不動産が「特定空き家」になる可能性は?行政指導の多い都道府県

実家や相続不動産が住居から離れたところにあって、管理が行き届かないまま放置してしまっている方も多いと思います。

他方、全国的に空き家増加が周辺に悪影響を及ぼすことが社会問題となり、いわゆる空家法が施行されて数年が経過しています。

「特定空き家」が強制的に取り壊されたというニュースも流れるなかで、空き家のまま放置している実家や相続不動産が、「特定空き家」になるのではと、不安になっている方も多いのではないでしょうか。

この記事では、「特定空き家」に指定されてしまう可能性について、空家法に基づく施策・措置の概要を確認し、現在の運用状況と行政措置の多い自治体の事例まで紹介します。

1.実家や相続不動産が「特定空き家」になる可能性

2015年2月に、空家対策の推進に関する特別措置法(以下、空家法)が施行されました。適切な管理が行われていない空き家等が防災、衛生、景観等の地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしていることから、その対策として立法されたものです。

空家法に基づいて策定された国の指針に沿って、市区町村が空き家対策の主体となり、「特定空き家」に対して様々な措置をおこなうことが可能になっています。

施行から2020年10月1日までの累計で、全国の市区町村で18,000件以上の措置がおこなわれており、行政代執行も略式代執行と併せると200件おこなわれた実績があります。

このような状況の下では、実家や相続不動産を適切に管理していなかった場合、その所在地の市区町村によって「特定空き家」に指定され、各種措置を受ける可能性は十分にある、といえるでしょう。

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1-1.空家法に基づく施策・措置とは

空家法に基づく施策・措置の運用の仕組みはどのようになっているのでしょうか。

運用は、原則、国の空き家対策の実施基本方針に基づいて、市区町村が主体となっておこないます。

市区町村は、空き家等対策計画を策定し(空家法6条)、関係部局間で連携して施策・措置を実施していくほか、協議会を設置して(空家法7条)、施策・措置の方針の決定などをおこなうことができるとされています。

空き家対策は、専門的な判断を要することから、実際には各種専門家から構成される協議会を設置している市区町村も少なくありません。

計画を策定したら、計画に沿って、空き家等の立入調査などをおこないます。保安上危険な状況にあったり、著しく衛生上有害となるおそれがあったり、著しく景観を損なっていたりする「特定空き家」を指定します。

そのうえで、「特定空き家」の所有者に対して、「助言・指導」(空家法14条1項)、「勧告」(14条2項)、「命令」(14条3項)を行うことができます。一定要件を満たせば、行政代執行の方法により強制執行も可能となっています(空家法14条9項)。

空き家対策としては、特定空き家に対する措置のほか、空き家等・その跡地の活用や財政上・税制上の措置を行っています。

1-2.地方自治体の運用状況

2019年10月1日時点で、空き家等対策計画の策定をおこなっているのは、全市区町村の6割以上となっており、策定予定も含めると9割に上ります。法定協議会の設置についても、全市区町村の6割以上が設置済あるいは設置を予定している状況です。

「特定空き家」に対する措置については、前述した通り、累計で約18,000件の措置がすでにおこなわれています。このうち、9割を助言・指導、勧告が占めており、現状では、いわゆる行政指導と呼ばれる法的義務の発生しない軽度なものがほとんどといえます。

しかし、空家法施行後、強制力のある行政処分にあたる命令、行政代執行、略式代執行も2019年10月1日までの累計で300件強に上っています。

なお、命令や代執行は、原則的には、助言・指導、勧告をおこなっても状況が改善されない場合に、所有者への事前通知、意見聴取など一定の手続きを踏まえて行われます。

2.「特定空き家」に対する措置実績の多い自治体

それでは、「特定空き家」に対する措置実績の多い自治体はあるのでしょうか。2020年10月1日までの累計では、上位から順に下表のようになっています。

助言・指導 勧告 命令 行政代執行 略式代執行 合計
1位 北海道 2018 29 5 4 7 2063
2位 新潟県 1507 78 5 4 6 1600
3位 京都府 1098 49 2 3 1152
4位 兵庫県 1063 50 8 3 20 1144
5位 千葉県 895 108 27 5 8 1043

※国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法の施行状況等について」を参照

反対に、措置実績の少ない自治体は、沖縄県10件、徳島県15件、香川県17件、山梨県19件となっています。

「特定空き家」に対する措置の多い地域が必ずしも人口密集地域であるとはいえず、自治体によって対策が進んでいる度合いに差が生じています。

以下では、措置実績の多い上位の都道府県から、北海道室蘭市、新潟県十日町市、兵庫県明石市の事例を取り上げ、「特定空き家」に対する措置の運用実態をみていきます。

2-1.北海道室蘭市

北海道室蘭市では、空家法制定以前の2013年から、独自条例によって空き家の所有者等の責務を明らかにするともに、事情の把握と今後の措置についての検討、対策をおこっています。

法施行後は、2016年11月に空き家の現状調査に基づき、空家等対策計画において「特定空き家」の認定基準を定め、対応方針を策定しました。

「特定空き家」に対する措置は、まずは所有者に活用や適正管理についての助言をおこない、改善されなければ、指導、勧告という流れでおこなわれます。勧告後は、意見書の提出機会が付与された後、命令、通知がおこなわれ、代執行となります。

命令相当の基準は、保安上著しい危険が切迫している、あるいは、衛生上、生命、身体又は財産の危険が切迫していることとされています。代執行相当の基準は、命令相当の基準に、放置できないレベルであること、という基準が加わっています。

代執行事例としては、コンクリート擁壁の崩落とこれに伴う建物倒壊のおそれがあった特定空き家について、2016年8月から10月にかけて擁壁の撤去と建物の解体・除却をおこなっています。

このほか、略式代執行事例としては、外壁が落下するなど建物の構造体の耐久度が低下して、周辺へ甚大な被害を与えるおそれのあった建物につき、2019年8月から2020年3月にかけて、略式代執行により解体・撤去がおこなわれています。

2-2.新潟県十日町市

新潟県十日町市では、国の空家法の施行を受けて、2020年4月より「十日町空家等の適切な管理に関する条例」を制定しています。

その中で、「特定空き家」を定義づけ、当事者間における解決を原則としつつ、所有者の適切な管理責任を明確にしています。緊急安全措置として、人の生命、身体又は財産に危害が及ぶことを回避するため緊急の必要があるとき、これを回避するため必要最小限度の措置をとることができるとしています。

また、所有者が不在であるとき、あるいは相続人不存在であるとき、市長に管理人または相続財産管理人の選任を請求する権限を与えている点も特徴的です。また、2020年7月には、空家等対策協議会を設置し、空家等対策計画の作成や実施を取りまとめることとしています。

十日町市は、条例制定以前から空家法の沿った空家対策の積極的な運用をおこなっています。2017年には、抵当権者が相続財産管理人を申し立てた、積雪による倒壊のおそれのある家屋の行政代執行による建物除去をおこなったり、所有者が解散法人である旅館建物が崩落しかかっているため略式代執行による除却をおこなったりしています。

条例は、このような空家法の運用についての実績を下敷きに制度化したものと考えられます。

2-3.兵庫県明石市

兵庫県明石市では、空家法施行直後の2015年5月にいちはやく、「明石市空家等の適正な管理に関する条例」を制定、施行して、空家等の適正な管理に関する対策をおこなっています。

同条例では、空家等の所有者または管理者に、管理不全にならないよう、適正に維持管理する責任があることを明記したうえで、空家法のガイドラインに沿った対策措置のフローを定めています。

立入調査、助言・指導、勧告、弁明の機会、命令、代執行という流れに各段階を条文化して、その要件を明確にしています。

特定空き家の所有者等に対して強制力のある命令をおこなう基準について、人の生命、身体又は財産に被害を与えるおそれが高いこと、周辺の生活環境に著しい影響を及ぼすおそれが高いこと、と条文に示しているのが特徴的です。緊急の必要があるときの応急措置についても定められています。

実績としては、2016年3月に、所有者不明の築100年の木造家屋が道路側に崩壊しかけており危険であるため、略式代執行により除却をおこなっています。また、2016年7月にも相続人が相続放棄した木造家屋が隣家に倒壊する危険があったため、略式代執行により除却をしています。

いずれのケースでも、土地所有者とは連絡が取れており、土地所有者に対して指導、勧告をおこなったうえで、公告するという手続きを踏んだのち、略式代執行となっています。

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まとめ

空家法に基づく「特定空き家」に対する措置は、まだ各自治体で対応に差がある状況です。

実家や相続不動産が、行政措置の多い都道府県にある場合は、本記事や自治体のホームページなどで「特定空き家」についての取扱いを確認し、指定されることのないよう、維持管理に気を付けるようにしましょう。

実家や相続不動産のある自治体が、まだ空き家対策が進んでいない場合であっても、空家法が制定されている以上、不適正な維持管理をしていると「特定空き家」になる可能性はあります。

空き家の所有者には、空家を適正に維持管理する責任があることを意識するよう心がけたいと言えます。

※この記事は金融・投資メディア「HEDGE GUIDE」より転載された記事です。
【元記事】https://hedge.guide/feature/specified-vacant-house-administrative-guidance-prefectures.html

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