東京駅から2駅。徒歩6分圏内に馬喰町、小伝馬町、馬喰横山、東日本橋と4路線4駅がひしめく好立地の東神田に、8月1日新たなホステルがオープンした。
新たな人やモノ、経験との出会いを生む「きっかけ」を作りたいという想いをもとに「KIKKA」と名付けられたこのホステルの最大の特徴は、「サステナブル」をコンセプトとしており、ゲストは食事や宿泊をするだけで寄付ができるという点だ。
不動産テック企業のイタンジと、ホステル運営を手がける7garden、そして世界の食糧問題解決に取り組んでいるNPO法人のTABLE FOR TWO International(以下、TABLE FOR TWO)という3社が手を組んで創り上げた。寄付の仕組みはTABLE FOR TWOが用意し、ホステル運営は7gardenが担う。
ここ数年はインバウンド観光客の増加に伴い、東京や大阪などの首都圏ではホテルや簡易宿所などの新規開業が相次いでいる。また、民泊新法の施行により民泊物件の供給も増えていくことを考慮すると、今後は宿泊施設同士の競争がより激化することが予想される。
激しい競争の中でゲストに選ばれ続けるためには、宿泊施設としてどのように個性を出し、ゲストにアピールしていくかが鍵を握るが、その中でKIKKAはなぜ「サステナブル」というキーワードを打ち出し、どのようなホステル運営を目指しているのだろうか。
今回、Livhub編集部ではKIKKAを運営する7gardenの須賀裕子氏にお話を聞いてきた。
無理せず自然に社会貢献ができる「サステナブル」なホステル
世界最大のオンライン宿泊予約サイト「Booking.com」が今年の4月に世界12か国、12,000名以上を対象に行ったアンケート調査によると、回答者の87%が「サステナブルな旅をする意欲がある」と回答しており、環境や社会に配慮したサステナブルな旅行体験に対する需要は世界中で高まっていることがよく分かる。
KIKKAがコンセプトの中心に据えているのもこの「サステナブル」な宿泊体験だ。KIKKAでは、TABLE FOR TWOとの提携により、1Fのレストランで特定のドリンクやおにぎりセットを購入すると料金の一部が寄付され、アフリカの子供たちに給食が届けられる仕組みを用意した。
また、KIKKAの場合は飲食だけではなく客室のシーツやタオルを交換しない、アメニティを使用しないといった環境に配慮した行動をとることでも寄付ができる仕組みとなっている。宿泊施設全体を通じて寄付のモデルを適用するのはTABLE FOR TWOとしても初の試みとなる。
他にも、レストランで使われるトレーには廃材が利用されているほか、ドリンクには町全体の「ゼロ・ウェイスト運動」で有名になった徳島県上勝町で作られたクラフトビールや、フェアトレードのコーヒーが提供されている。
さらに、1Fには「LIFE JOURNEY(人生の旅)」をテーマとするカンボジア発のエシカルライフスタイルブランド「SALASUSU」の商品が常設展示・販売されており、宿泊客がその場で購入できる仕組みとなっているなど、ホステル全体に「サステナブル」な体験が凝縮されているのだ。
こうした「サステナブル」というコンセプトについて、須賀氏は「なにか社会性のあるものを発信できたらよいなという想いがあったが、何かを押しつけるのではなく、より自然な形で社会に貢献できるきっかけを作りたかった」と語る。
社会貢献を前面に押し出し、それを目的とするのではなく、レストランで食事をとる、宿に泊まるといった何気ない行為のなかで自然と社会貢献に関われる仕組みを用意する。それがKIKKAの狙いなのだ。
インバウンド観光客を惹きつける「サステナブル」というキーワード
この「サステナブル」というキーワードは、狙い通りにインバウンド観光客の心にも刺さっているようだ。須賀氏によると、現在のゲストは日本人が半分、海外が半分程度、海外は欧米やアジアなど幅広い国々からバランスよく集客ができているという。
先日泊まりに来たドイツ人ゲストは、「どうせお金を払うのであれば、誰かが幸せになってもらえるほうがよい」と考えてKIKKAへの宿泊を選んでくれたとのことだ。欧米からのゲストからは特にこうしたコメントをもらうことが多いという。
環境や社会への意識が高い欧米では、商品やサービスの「サステナビリティ」を重視する消費者行動が旅行の領域に限らずあらゆる分野で既に主流となってきている。また、最近では経済発展による大気汚染や環境破壊といった問題に直面しているアジア圏の消費者の間でも、同様の認識や行動が広まりつつある。
「サステナブル」というキーワードは、環境や社会にとってよいだけではなく、インバウンドの観光客を惹きつけるという意味でも強みとなりうるのだ。
既存の構造物の良さを活かすことで、コストにもメリハリをつける
KIKKAの「サステナブル」に対するこだわりは、提供する飲食物や寄付の仕組みだけではなく、ホステル建築の段階からはじまっている。
地下1階、地上6階のオフィスビルをリノベーションして建てられたKIKKAは、既存の構造物のよさを最大限生かした内装デザインとなっているのも特徴だ。
むき出しになった外壁のコンクリートは、洗練されたインテリアと合わせることでモダンな雰囲気を演出している。リノベーションにあたって最低限の補修にとどめることで、無駄な材料などを使うことなくサステナビリティとコストの削減を両立しているのだ。
インバウンド観光客が来やすい立地と、街の魅力
KIKKAの出店エリアを選定するにあたり、どのようなポイントを重視したのだろうか。須賀氏は、東神田は「東京駅に近いだけではなく馬喰町、東日本橋などが最寄りなので成田空港からのアクセスもよい」とその魅力を語る。
さらに、最近ではこのエリアにおしゃれなベーグル屋さんやビストロ、かわいい雑貨屋などが増えるなど地域自体も盛り上がりを見せており、「都会だけど下町」という独特の雰囲気がインバウンド観光客にとっても魅力的に映るそうだ。
なお、KIKKAは十字路の角に建てられているが、角にあるオフィスは建築構造上の規制を考慮してもよい部屋を用意しやすいと教えてくれた。
インバウンド観光客が利用しやすい「アクセス」、下町のローカルな雰囲気という「エリア自体の魅力」、そして「好立地に立つ空きビルが多い」といった点がKIKKAのエリア選定のポイントとなったようだ。
コラボレーションによる新しいホステルの形
今後、KIKKAはサステナブルなホステルとしてどのような仕掛けを用意していくのだろうか。そのキーワードは「コラボレーション」だ。
KIKKAはすでにTABLE FOR TWOやSALASUSUなど様々なプレイヤーとタッグを組んでユニークな宿泊体験を提供しているが、須賀氏は「今後は地域の子供たちを集めたイベント開催など、観光客と地域の人々が交流できるきっかけも提供していきたい」と語る。
TABLE FOR TWOとの連携によりおにぎりを作るイベントの開催や、フェアトレードコーヒーのワークショップ開催など、コラボレーションによる可能性は様々に広がる。
民泊サイトのAirbnb上では宿泊だけではなく「エクスペリエンス(体験)」が人気を集めていることにも象徴されるように、旅行者の関心は「モノより体験」へとシフトしている。
KIKKAでは、バーやレストランといった施設や地域の特性を活かして様々なプレイヤーとコラボレーションすることでユニークな体験を提供し、ただ寝泊まりするだけではない新しいホステルの形を創造していく。
まとめ
旅館業法の改正や民泊新法の施行など法規制が変化するなか、宿泊施設の形態は家主居住型の民泊から無人型ホテル、コンセプト型ホステルなど様々に多様化しつつある。宿泊施設の選択肢が増えることはゲストにとっては喜ばしいことだが、施設運営側としては多種多様な選択肢のなかから自社の施設を選んでもらうための努力が一層求められるということでもある。
そのなかで、「サステナブル」をキーワードに様々な企業や団体とコラボレーションしながらユニークな宿泊体験を提供し、インバウンド観光客を惹きつけているKIKKAの事例はとても参考になる。
興味がある方はぜひ一度KIKKAに足を運んでみてはいかがだろうか。実際にKIKKAの雰囲気を味わうことで、これまでにない新しい宿泊施設のアイデアが膨らむはずだ。
【参照サイト】KIKKA
【参照記事】ブッキング・ドットコムが2018年の 「サステイナブル・トラベル」に関する調査結果を発表
【参照記事】株式会社7garden
【参照記事】イタンジ株式会社
【参照記事】TABLE FOR TWO International
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