目的もなく、何気なく入った本屋さんで手にした本が、自分にとってかけがえのない、忘れられない本になったという経験はありますか?
いつか自分が慣れ親しんだ街で本屋を始めたいと思っている私は、本屋をある種、心の安定を計る「バロメーター」として活用している節があります。
例えば人間関係で悩んでいるとき、特定のある仕事のやり方に課題を感じているとき、日々のごはん作りに悩んでいるとき……。
そんな潜在的な悩みを抱えているときに本屋を訪れると、不思議とその答えになるような本が目に入ってくるんです。そして手に取った本から、自分がその時抱えていた悩みを初めて自覚します。その本を読みながら、少しずつ悩みがほどけていく…そうした一期一会の出会いが楽しめる本屋さんは、まさに私の心のオアシスです。
Amazonや大型書店で目的の本をダイレクトに選びとることも、もちろん便利なこと。けれど自分が思いもしなかった本との出会いを楽しむための本屋巡りには、想像以上の気づきや発見があるんです。
そこで今回は、選書の仕方や配置、届け方を工夫することで、来店するたびに新たな気づきを運んでくれる東京の本屋さんを5つ選んでみました。
1. SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS(SPBS)(東京・渋谷)
JR渋谷駅から文化村通りを抜け、代々木公園方面へ歩くこと約10分。最近は「奥渋谷」と呼ばれる、おしゃれな雑貨屋や飲食店がひしめく人気エリアとなった神山町に、SPBS本店はあります。ガラス張りで店内の様子がよく分かる、オープンな雰囲気の新刊書店です。
店内の奥には、ガラスを1枚挟んでオフィススペースも広がっています。「出版する本屋」というコンセプトである、SPBSの編集部の様子も覗くことができるのです。
本は書棚ごとにジャンル分けがされていて、担当のスタッフの方が一冊一冊、丁寧に選書されているのだそう。同じテーマでも話題の本からちょっぴりニッチな本までさまざま。ぐるりと一周するだけで好奇心を刺激されます。
また特徴的なのはアクセサリーや雑貨、文房具、洋服など書籍以外のアイテムも充実していること。本のそばにある暮らしをイメージしながらセレクトされているのだとか。本のフェアとかけ合わせたりしながら、「モノ」との偶然の出会いも楽しませてくれます。
イベントやオンラインのスクールなども積極的におこなわれているSPBS。単なる「本屋さん」の枠には収まらない、文化の発信基地としても重要な役割を担っています。
住所 | 〒150-0047 東京都渋谷区神山町17-3 テラス神山1F |
アクセス | JR渋谷駅徒歩10分 |
営業時間 | 11:00~21:00 ※現在は短縮営業中 |
公式HP | https://www.shibuyabooks.co.jp/ |
2. かもめブックス(東京・神楽坂)
地下鉄東西線・神楽坂駅の矢来口を出て徒歩30秒の場所にある、かもめブックス。青いひさしが目印の新刊書店です。本屋とカフェ、奥にはギャラリーも併設しています。
お店に入るとすぐに目に入るのが、テーマが掲げられた店頭特集の平台。定期的に入れ替わるテーマは、その時々で話題になっていることや季節にまつわること、お店を訪れる方々の傾向を考えながら企画されているのだそう。普段は興味を持てなかった本でも、斬新な切り口で選書されていると、思わず手に取ってしまうから不思議です。
店内にはほかにも、仕事や暮らしの本、雑誌や小説、文芸誌など偏りなくさまざまなジャンルの本が並んでいますが、いつ訪れても新たな本との出会いがあるから面白い。かもめブックスならではの選書の仕方が、本に興味のない方でも手に取りやすいよう工夫されています。
かもめブックスの周辺には、日本の暮らしや旬を意識した商品を販売する「アコメヤトウキョウ」があったり、もう少し足を伸ばせば行列のできるパン屋さんや、隈研吾がデザインした新しいタイプの神社があるなど、神楽坂は歩いていて楽しい街。
かもめブックスを訪れて本との出会いを楽しんだら、ぜひ神楽坂の街も楽しんでみてはいかがでしょう。
住所 | 〒162-0805 東京都新宿区矢来町123 第一矢来ビル1F |
アクセス | 東京メトロ東西線神楽坂駅矢来口より徒歩30秒 |
営業時間 | 11:00~21:00 |
公式HP | https://kamomebooks.jp/ |
3. 旅の本屋のまど(東京・西荻窪)
多くの個性豊かな本屋がひしめく「西荻窪」。そんな本屋の街で、「旅」という切り口で選書され、本屋好きだけでなく地元の人にも長年愛されている本屋さんが、「旅の本屋 のまど」です。本を通して「旅」を感じ、「旅」への想像をかきたてられるような本屋を目指しているのだそう。
店内の棚は主に、国名やエリアごとにジャンル分けがされています。面白いのはガイドブックだけでなく、食や文化、政治などの切り口の本を通じて、その地域を多角的に知ることができるようになっていること。大きな本屋では数冊しか取り扱いのないようなニッチなエリアの情報も、層が厚く取りそろえられているから興味がそそられます。
海外の「旅」の情報だけでなく、都内を始め、国内のきれいなカフェを集めた本、散歩がしたくなるような本なども充実。身近な場所でも、視点を変えれば「旅」に出たような気持ちを味わえるのだと気付かせてくれます。
コロナ禍でなかなか旅行には行けない今だからこそ、ずっと行きたかった国のことをよく調べてみたり、身近にありすぎてなかなか足を運べていなかった場所へ行ってみたり。何気ない日常に、「旅感覚」という新たな刺激を与えてくれる、本屋さんです。
住所 | 〒167-0042 東京都杉並区西荻北3-12-10 司ビル1F |
アクセス | JR中央線西荻窪駅から徒歩5分 |
営業時間 | 12:00~22:00 |
公式HP | http://www.nomad-books.co.jp/ |
4. 無用之用(東京・神保町)
本屋さんに興味がなくとも「神保町」と聞けば、そこが本屋の街であると認識している方も多いのではないでしょうか。大手新刊書店や古書店、出版社や、出版社が経営するカフェなど、本にまつわるあらゆる業態が集まる神保町。そんな街で2020年6月にオープンしたばかりの、新刊と古本を扱う本屋さんをご紹介します。
書店名である「無用之用」は、老子の言葉で「一見、無用に思えるものにこそ本質的な価値がある」という言葉に由来しています。「すぐには役に立たないかもしれないけれど、もしかしたらいつか役に立つかもしれない」という本を揃えているのだそう。
店内はビルの3階にあるので一見どんな本屋かはわからないけれど、エレベーターが開くとそこはもう本好きにはたまらない空間が広がります。
壁一面に並べられた木箱の中には、書店員が選書した本もあるものの、約半分はお客さんをはじめ、店主とつながりのある方など、さまざまな人に声をかけて選書してもらった本が並んでいます。面白いのは棚の一つ一つに、好奇心がくすぐられる言葉で選書の切り口が掲げられていること。
例えば「いつもの読書に、柚子胡椒」、「もう少し器用に生きたいんですけどね」など。切り口の表現が斬新で、思わず棚に釘付けに。ああなるほどね、とクスッと笑ってしまうような本や、どうしてこの本が?と驚くような本が選書されています。店内を歩いていると、まるでその本を選んだ人の姿が見えてくるような、不思議な感覚がしてきます。そうそう、本を購入した時にだけもらえるレシートにも、面白い仕掛けがあるので、ぜひお楽しみに。
無用な本なんて一冊もないのかもしれない。そんなことに気付かせてくれた、何度でも訪れたい本屋さんです。
住所 | 〒101-0051 東京都千代田区神田神保町1-15-3 サンサイド神保町ビル3F |
アクセス | 東京メトロ半蔵門線神保町駅より徒歩2分 |
営業時間 | 12:00~20:00 |
公式HP | https://issueplusdesign.jp/muyonoyo/ |
5. BOOK TRUCK(あちこち)
最後はちょっぴり変化球の本屋さんをご紹介。空色のブルーの車体が目印の、移動販売車「BOOK TRUCK」です。
BOOK TRUCKは、公園や駅前、野外イベントなどに出店して、行く先々に合わせて品揃えや形態が変わる、フレキシブルな移動本屋です。主に新刊、古書、洋書、リトルプレス、雑貨などを取り扱っています。
トラックの中に入って書棚を覗いたり、周りに並べられたたくさんの木箱の中にある本を手に取ってみたり。普通の室内にある本屋さんとは違い、人の往来がにぎやかな場所や、心地よい風を感じながら楽しむ本との出会い。イベントの雰囲気や、訪れる人たちをイメージして店主がセレクトした本の中には、きっとあなたの心に残る一冊があるはず。
オンラインショップで本の販売もしているので、どんな本を取り扱っているのかチェックしてみると、イメージがつかめるかもしれません。
SNSなどで出店情報を発信しているので、ぜひイベントと合わせて楽しんでみると、より一層充実した1日が送れそうです。
住所 | なし |
アクセス | なし |
営業時間 | イベントによる |
公式HP | https://booktruck.shop/ |
=====
まだまだ今回だけではご紹介しきれないほど、都内には魅力的な本屋さんがたくさんあります。
仕事帰りや休日など、ちょっと時間が空いたときや、いつも繰り返す毎日に物足りなさを感じたとき。なんだか少しモヤモヤするとき。そんなときにふらりと訪れてみると、何気ない日常がほんの少しだけ豊かになる体験ができるかもしれません。
櫻井朝子
最新記事 by 櫻井朝子 (全て見る)
- 出会いは、思いがけず、偶然に。好奇心をくすぐられる東京のおすすめ本屋 - 2022年4月23日
- ちょっとそこまで、ワーケーション | 家から40分、知らない町の静かな本屋で夢に近づく4時間の旅 - 2022年3月3日