「新法施行後の民泊+マンスリーハイブリッド戦略」メトロレジデンス・Lester Kang氏

2014年にシンガポールで設立された、企業向けサービスアパートメントのプラットフォーム「MetroResidences」(以下、メトロレジデンス)。アジア経済のハブ拠点であるシンガポールで着実な成長を遂げた同社は、楽天からの資金調達を受けて2017年に日本に進出した。

来年には民泊新法が施行され、大きく民泊市場が花開こうとしている日本で、メトロレジデンスがどのような戦略を描き、どのような事業展開を考えているのか。Livhub編集部では、同社のファウンダー兼CEOのLester Kang氏にお話を伺った。

話者プロフィール:MetroResidences CEO Lester Kang氏

南カリフォルニア大学、航空宇宙工学卒業後、ビールメーカーAsia Pacific Breweries に入社。その後、DBS銀行に5年間勤め、2013年にPandaBeds、アジアのホームシェアリングサイトを創立。2014年にMetroResidences、長期出張用のサービスアパートメントサイトを開始、2017年に日本オフィスの立ち上げのため来日。

インタビュー

メトロレジデンス設立から日本進出までの経緯

Q:メトロレジデンスを設立した経緯について教えてください。

メトロレジデンスはシンガポールで3年前に始まった会社で、ビジネス出張者と高品質なアパートメントをマッチングするプラットフォームを提供しています。

私はもともと航空宇宙工学を学んだ後にビールメーカーに入社して3年間マーケティングを担当し、その後は銀行でも5年ほど働きました。私は旅行が大好きだったので70ヶ国以上を回りましたが、旅行するときはいつも民泊を利用していました。そして2013年にPanda BedsというAirbnbのような民泊プラットフォームをオープンしたのですが、これはあまりうまくいきませんでした。

しかし、バケーションレンタルのビジネスをするなかで、多くの企業が従業員を出張させる際に民泊プラットフォームで貸し出されている部屋は使わせたくないと考えていることが分かりました。その主たる理由は部屋のクオリティです。

Panda Bedsが成長するにつれ、大企業のオフィスマネジャーは私たちに直接連絡してきました。「レスター、君のアパートメントが気に入ったから、価格も手ごろで品質の高い部屋を3部屋用意してほしい。滞在期間は2ヶ月だ」といった具合です。最初は物件オーナーと直接話しをしてほしいと思いましたが、ここでしっかりとサポートすればまたさらに多くの予約が獲得できると考え、対応しました。すると、彼らはまた数か月以内に予約を入れてくれました。

企業からのこのようなニーズがあることが分かり、ビジネス出張者向けの高品質な物件の掲載を進めていったところ、物件数と予約が毎月順調に増えていき、企業に対してより低価格で従業員を出張させられる部屋を提供できるようになりました。

また、そのなかで私たちは物件オーナー側のほうも短期の民泊ではなく3ヶ月程度の長期滞在をしてくれるビジネス出張者からの予約を望んでいることを知りました。なぜなら、彼らはアパートをとても丁寧に扱ってくれるからです。ビジネス出張者の場合ゲストは1人か2人がメインで、民泊とは違い1LDKに5人で泊まるといったこともありません。

そのため、私たちはビジネス出張者が使えるようなミドルからハイエンドだけに特化した高品質なアパートメントのプラットフォームを構築することを決めました。それまで物件オーナーにとっては通常の賃貸として2年間を貸し出すか、民泊プラットフォームで3日間を貸し出すかの選択肢しかなく、その中間がありませんでした。だからこそ、私たちは彼らを助けるプラットフォームを作ったのです。企業向けのサービスとして提供するためにPanda Bed というブランドも辞め、MetroResidencesとしてサービスを開始することにしました。

2016年1月には500 Startupsより資金調達ができたことで、シンガポールでは急速に成長することができました。現在、私たちはシンガポールと東京で合わせて約600のアパートメントを提供しており、著名なグローバル企業も含む800社以上の企業が私たちのサービスを利用しています。大企業の工場の近くといったビジネス出張者のニーズに合った場所にも数多くアパートメントを保有しています。また、日本でも既に70部屋以上を提供しています。

Q:シンガポールから日本に進出した理由は?

日本市場に進出した理由は主に3つあります。1つ目は、私たちは幸運なことに楽天から資金調達をすることができ、楽天のネットワークを活用して日本市場に進出する大きな足掛かりを得ることができたからです。

2つ目は民泊新法です。日本でももうすぐ民泊が合法化されますが、180日規制があることで残りの180日をマンスリーで運用するというニーズが出てきます。 この民泊規制も私たちにとってはよい機会となります。

そして3つ目はオリンピックです。日本ではオリンピックに向けてより多くのビジネス出張者が見込まれます。これら3つが、私たちが東京に進出した理由です。また、来年には香港にも進出予定です。

Q:民泊新法についてどう見ているか?

日本の政府は正しい方向に進んでいると考えています。他のアジア諸国を見てみても、日本の民泊規制は最も先進的で先見性があると思います。シンガポールや香港でも民泊は禁止されていますし、民泊が合法化されている欧州でも営業日数制限は90日などと短いのに対して、日本は180日ですからね。唯一望むことは、民泊の届出をよりシンプルなものにしてほしいという点です。

マンスリーと民泊のハイブリッド戦略

Q:民泊新法はチャンスのことだが、どのようなハイブリッド運用戦略があるか?

弊社では、物件を100%法人用のマンスリーとして運営した場合でも通常の賃貸よりは70%の収益アップ、マンスリー50%・民泊50%のハイブリッドで運用した場合では80%の収益アップが見込めると試算しています。

運用を始めるにあたってベストなケースは、10部屋あるマンションを持っていたとしたら、まずは5部屋を民泊で、残りの5部屋をマンスリーで貸し出してみるというやり方です。そうすることで、その物件の場合どちらのパフォーマンスがよいのかを比較することができます。

Q:民泊とマンスリーを同時に運用して収益を最大化するという方法は?

一つの部屋で民泊とマンスリーを同時にやるのは非常に難しいでしょう。例えば8月に2日間の予約が民泊で入った後に、マンスリーのプラットフォームから3ヶ月の予約が入ったとします。するとあなたは民泊の予約を断らなければいけません。ビジネス出張者のマンスリー予約は到着日の約2週間前に入るケースが多く、予約日と宿泊日がそれほど離れていません。そのため、私たちはオーナーに対しても民泊とマンスリーを同時に行うと必ずクラッシュするといつも伝えています。もし一つの部屋で民泊とマンスリーを両方やりたいのであれば、この月はマンスリー、この月は民泊、という形で決める必要があるでしょう。

Q:民泊とマンスリーのどちらを優先すべきか?

私たちはマンスリーを優先するのがベストな戦略だと考えています。2~3ヶ月ごとの予約をマンスリーでとり、隙間があれば民泊で埋めるという方法です。また、先ほどお伝えしたように10部屋あれば5つは100%民泊に、5つは100%マンスリーで運用して比較してみるというやり方もよいでしょう。そして、4月~10月までは民泊のためにブロックし、残りの月をマンスリーでやるという方法も考えられます。ただし、民泊とマンスリーを一つの物件で同時に運用することだけは避けるべきです。

サービスアパートメントの魅力とは?

Q:民泊よりもサービスアパートメントのほうが魅力的だと言えるポイントは?

物件オーナーにとっては、より長期の継続的な貸し出しができる点が魅力です。企業向けの場合は最大でも1年につき4~5回しかゲストの入れ替わりがありません。2つ目は、アパートへのダメージもより少なくなるという点です。そして3つ目は、やはりサービスアパートメントとして貸し出すことでより多くの収益を生み出せるという点でしょう。通常の賃貸と比較しても最大2倍の収益を上げることができます。

また、プラットフォーマ―である私たちが物件をマネジメントするので、物件のオーナーは何もする必要がありません。民泊ではゲスト対応などを毎日のようにやる必要があり大変ですが、サービスアパートメントの場合はもっとシンプルなのです。

Q:サービスアパートメントにはどのような物件が適しているか?

典型的な物件は、都心部の駅近にある25㎡程度の部屋です。また、新築かリノベーションかに関わらず、サービスアパートメントは常に高品質でとてもよい状況に保たれていなければいけません。

民泊の場合はグループで宿泊できるような2LDK~4LDKの物件が人気だと思いますが、サービスアパートメントではゲストは1人か2人が多いため、1ベッドルームか2ベッドルームの物件がとても人気です。管理組合の問題をクリアすれば、分譲マンションの1室を貸し出していただくことも可能です。

Q:サービスアパートメントを成功させるうえで最も大事な要素は?

一番大事なのは場所です。次は、家具類の品質です。そして三つ目はクリーニングや清掃といったプロフェッショナルな管理です。品質はとても重要で、掲載物件については独自の基準を持っています。私は東京で数多くのAirbnbスーパーホストにお会いして100件以上の物件を見ましたが、基準を満たしているのは2件だけでした。例えば民泊物件のなかにはテレビがない物件やポケットwifiしかない物件がありますが、ビジネス出張の場合は高速インターネットが求められますので、ポケットwifiだけでは十分ではありません。また、清掃も高品質である必要があります。清掃は週に1度ないし2度行っています。

今後の市場見通しと事業展開

Q:日本のサービスアパートメント市場は伸びているか?

はい。大きく二つの動きから市場の伸びが見てとれます。まず一つ目として、最近ではAscottをはじめとして従来のサービスアパートメント企業の多くが成長しており、次々と新しいアパートメントをオープンしています。最近はシェアオフィスとサービスアパートメントが一緒になったタイプなども出てきています。また、もう一つの動きとしては、マンスリーマンション企業も高級マンスリーマンションの提供を始めています。

Q:将来は競争が激しくなることも予想されるが、その中での立ち位置は?

日本のマンスリーマンション市場は既にかなり成熟している市場だと思います。ただし、ビジネス出張者の多くはより高品質なマンスリーマンションを求めていますので、私たちはその領域に焦点を絞り、マンスリーマンションに対するイメージを向上したいと思っています。

そして二つ目は、手続きの簡素化です。私も東京に来てマンスリーマンションを契約しようとしたのですが、様々な手続きに10日以上もかかり、とても大変でした。Airbnbであればオンラインで予約するだけなのに、現状の仕組みではとても遅すぎます。

私たちはこの状況に対してただ黙っているのではなく、より手続きを簡単で素早くできるように変えていこうと考えています。メトロレジデンスでは業界初となるライブカレンダー機能を搭載しています。そのため、あなたはどのアパートメントが入居可能なのか、わざわざ電話しなくても確認することができます。さらに、私たちは全ての手続きがオンラインで完結できるよう、リアルタイム決済やリアルタイム予約についても搭載しようと考えています。

また、通常のマンスリーマンションとは違い、サービスアパートメントにはその名の通りクリーニングやコンシェルジュといった「サービス」が含まれています。想像してみてください。ビジネス出張で来ているあなたはとても忙しく、洗濯や家事をする時間がありません。サービスアパートメントでは、週に1度のクリーニングサービスが受けられ、新しいシーツとタオルが提供されます。それはとても快適な体験です。マンスリーマンションにはないこのホテルのようなサービスが大きな違いだと思います。

Q:楽天LIFULL STAYとはどのように協働する予定か?

楽天の戦略マトリクス全体のなかで、メトロレジデンスとしてはインバウンド領域のマンスリーに注力する予定です。海外から日本にやってきて数か月程度滞在するビジネス出張者です。私たちは英語、中国語、スペイン語など多言語で対応可能なので、物件オーナーは私たちを通じて長期の予約をとることができます。

楽天LIFULL STAYは主にバケーションレンタルの領域を、私たちは主にビジネス出張者の領域を担当するというイメージです。現在はオフィスも同じなので、毎日情報を共有しながら密に連携しています。

Q:将来的に国内のビジネス出張者向け領域を狙う予定は?

私たちとしては、国内であれ海外からであれ、ビジネス出張者は同様にターゲットになると考えています。例えば北海道から東京へ出張に来るビジネスマンもそうですし、企業がインターンシッププログラムで学生を東京に召集する際の宿泊なども考えられるでしょう。

現状は日本のサービスアパートメントユーザーのほとんどが外国からの出張者ですが、将来的にはどうなるか分かりません。既に多くの人々が高級マンスリーマンションを使用し始めていますので、それらの層が今後、さらなるサービスを期待してサービスアパートメントへとシフトしていく可能性もあると考えています。

Q:国内での目標は?

2020年までに、東京のサービスアパートメント市場で10%のシェアを獲得することを目指しています。これは、約1,000アパートが稼働している状況ですね。

Q:具体的な注力エリアは?

年内は東京だけに集中しようと考えており、特に優先順位が高いのは港区、渋谷、新宿、品川、銀座です。また、まだ決めてはいませんが、数多くの工場があって東京から管理もできる横浜が面白いという意見もあります。

物件オーナーの方に対するメッセージ

Q:物件オーナーに対するメッセージをお願いします。

東京都心部でミドルからハイエンドのアパートメントを持っている方がいれば、ぜひ私たちにコンタクトをしていただきたいです。駅近の物件で1ベッドルーム、2ベッドルームなどはベストです。私たちのサプライヤーチームが、物件の掲載から、家具の購入・セッティング、写真の撮影、日々の物件の管理までを支援させていただきます。物件をセットアップするまでは3週間ほどで終わります。

また、立地など一定の条件を満たした限られた物件については6ヶ月間のレンタル保証をつけることもあります。物件オーナーの方はリスクなくサービスアパートメント運営をはじめることができます。ぜひサプライヤーチームにご連絡ください。

左:メトロレジデンス新規事業企画室 原 アルトゥ―ロ 健太郎 氏/ 右:メトロレジデンス CEO Lester Kang 氏

インタビュー後記

メトロレジデンスのCEO、Lester Kang氏からは民泊新法後の運用手法として注目が集まっている民泊とマンスリーのハイブリッドによる物件運用の具体的な話を聞くことができました。物件によっては民泊ではなくマンスリーやハイブリッドで運用したほうがよりローコストオペレーションで高収益を期待できる可能性もあり、インバウンド不動産投資の新たな選択肢としてサービスアパートメントが持つ魅力を強く感じました。

Lester氏によると、メトロレジデンスの本拠地であるシンガポールのチャンギ空港周辺では既にグローバル企業で働くビジネスマンの需要によりサービスアパートメントの稼働率が逼迫状態にあるとのこと。今後は東京でも同様の状態が起こることが見込まれます。都心部で物件をお持ちの方は、ぜひメトロレジデンスへの掲載を検討してみてはいかがでしょうか。

メトロレジデンスの概要

会社名 MetroResidences
所在地 東京都千代田区大手町1−9−2 大手町フィナンシャルシティグランキューブ3F
サービス名 MetroResidences
サービス内容 サービスアパートメントプラットフォーム

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(Livhub 編集部)

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