Zens株式会社・町田龍馬氏「民泊を単なる流行りで終わらせない。」民泊事業のパイオニアのこだわりと今後の展望に迫る

Airbnbが日本上陸前から民泊代行事業をスタートしている業界のパイオニア。累計200物件以上の運用実績を誇る「Zens株式会社」。同社の高品質なサービスはairbnb共同創業者からも評価されており、次々と人気の民泊物件を生み出している。高い稼働率と利益を長期的に維持し、高評価レビューを獲得する人気物件の運営サポートは、どのようなノウハウに基づいて行われているのか。今回、自身もairbnbホストとして物件を提供した実績がある同社代表の町田氏にお話しを伺った。

話し手プロフィール:Zens株式会社 代表取締役 CEO 町田龍馬氏

1987年、長崎県生まれ。17歳でニュージーランドへ渡り、現地の高校および大学を卒業。大学在学中に留学生向けサービス、グルーポン系サービス等の開発・運営を経験。22歳で帰国し、2011年に株式会社Zen Startupを共同創業、取締役に就任し、同社で南アフリカのイベントマーケティングツール販売代行を行ったのち退任。2013年、2社目となるZenStartup株式会社を創業。airbnbホストとして自宅を民泊として運営し、コンセプト型民泊の運営をスタート。2014年にAirbnb運営代行サービスを開始すると同時に、社名を「Zens株式会社」に変更。現在は約50名のスタッフを統括する代表取締役CEOを務める。

インタビュー

Zens誕生の経緯

はじめに、町田さんのご経歴を教えてください。

私は幼い頃から、経営者である父に中国の会社や海外旅行に連れて行ってもらうことがあり、私にとって「海外」は身近な存在でした。同時に学生時代から商売に興味があり、海外留学生を増やすための留学エージェントや海外市場で起業家精神をもつ人を増やすためのグルーポン系サービス、シェアハウス企画、北米向けに作ったFacebookマーケティングツールの作成等、さまざまなビジネスを手掛けてきました。

そして新しいアイデアを模索していた時期に、airbnbでホストになることを思いつき、自宅を貸しだしたのが4年前です。1人目は横浜で舞台演出の仕事をするために訪れたフランス人の女性でした。彼女は1泊8,000円で2週間ほど滞在し、そのなかで自分が経験した面白い話を私に聞かせてくれました。1人目がとても気さくで良い人だったこともあり、その後2年半にわたり自宅でホストを続けました。その経験から日本にいながらホストとしてゲストをつなぐことができるのではないかと思いました。

まず「Tokyo Art Room」というコンセプト型のAirbnbを、友人の建築家と職人、大手ECサイトでロゴ制作の経験があるアートディレクターと協力して作りました。普通にAirbnbに物件を掲載するだけでは面白くないので、部屋をアートギャラリーにして日本の若手アーティストの作品を飾り、部屋を経由して世界の人に発信するというコンセプトで行いました。彼らを引き会わせるためミートアップの場も何度か設けました。

そしてあるとき、友人の建築士がイタリアの建築士に自分の作品を見せたところ「君の作品はイタリアでも通じる」と褒められたことで自信を得て、Behance(ビハンス)というサイトに作品をアップしはじめました。以前から私も友人にBehanceを勧めていましたが、彼にとってはイタリア人の同じ建築士の言葉が背中を押すきっかけになったようです。そのようなきっかけ作りとして、ミートアップはとても有効でした。その後、2014年8月に民泊運営代行事業を始め、社名を「ZensStartup」から「Zens」に変更しました。

民泊代行会社を始めてから、現在までの過程を教えてください。

Facebook上で「民泊運営代行をします、売上の30%でやります」と書いたところ、投稿を見た方から連絡があり、カメラマンを探して一緒に撮影をして、ページ作成やメッセージ代行といった一連の作業を私1人で行いました。今までのビジネスでは、マーケティングツールを先に作りすぎて一番大切な「顧客を見つける」ということを後回しにしていたので、そのような失敗経験を活かし、顧客が見つかるまでは何でも自分でやるという気持ちで取り組んでいました。それから3年間は民泊運営代行事業をメインに、とにかく管理件数を増やすことに注力しました。私は日本の民泊が合法化することを見据え、実績と基盤作りをしようと決めました。はじめは何でも自分でこなし、案件が増えると人を採用し、ソフトウェアを開発して効率化を図りました。

いろいろビジネスを経験しましたが、18歳から一貫して変わらないことは「日本と海外をつなげて、日本人に新しい価値観をあたえたい」という気持ちです。新たな仕事や新しい人生、何であろうと「日本を元気にしたい」という思いはずっと変わりません。そのピースがようやく合いはじめ、住宅宿泊事業法の施行を機にどんどん大企業が参入してくるなか、私の実績を活かしてその方々とビジネスができるようになり、計画通りに進められていることを実感しています。

現在、Zensには何名のスタッフが在籍していますか?

社員が13名、アルバイトが5名、週3以上業務委託する人を含めるとメンバーは50名ぐらいです。そのほか撮影スタッフや清掃スタッフなどもいます。中国人、アメリカ人、フランス人、インド人、ポルトガル人、あとはハーフも含めて多種多様なメンバーが活躍しています。

私と同じく海外に出て初めて日本の良さ、弱さ、可能性が見えたという人が「日本と海外をつなげる」という弊社のミッションに共感して入社してくれています。もちろん海外に行ったことのないメンバーもいますが、未来を見据えて動くことができている人が多いです。今後の日本の施策として観光業をやっていく、だからインバウンドは伸びる、伸びるなかでも「民泊」が不動産業界と観光業界のギャップを埋めるソリューションになるだろうということで、弊社のビジネスモデルの説明を聞いて納得して入社してくれている人もいます。現在の多様性のあるチームも弊社の強みのひとつとなっています。

Zensが行う民泊運営代行業とは

Zensが提供している代行サービスについて教えてください。

弊社は「継続的に利益を生み出す運営」をコンセプトとしています。清掃、宿泊予約、備品リネンなどの管理は自社ツールを利用することで経費を下げるとともに、時期やシーズン毎に必要となるコストなどを踏まえた価格最適化のロジックを形成しています。価格の最適化については、過去4年間の自社データと他社データを使いながら、専任のスタッフが日々研究しています。

ZensのCFOは、OTA(オンライン旅行会社)を運営する上場企業で価格のアルゴリズム開発に携わっていた経験があります。現在はその経験をもとに、社内の価格最適化体制を強化しています。また、弊社はサンフランシスコの会社が提供する人工知能を用いた価格最適化ツールを、3年前に日本でいち早く導入し、現在も活用しています。この会社のデータサイエンティストとやりとりさせてもらいながら、各物件の平均単価と稼働率の最大化を目指しています。 

オプションはコンテンツ作成パック、撮影サービス。そしてairbnb等のプラットフォームのアカウント作成と、ページ・文章のセットアップです。あとは、到着するゲストがわかりやすいように道案内や設備案内を書いたウェルカムガイドというドキュメント。そして内装パックは、プロのインテリアコーディネーターが実際にコーディネートから見積もりを作り、入金があれば全部購入代行、設置、組み立てというように、一括で内装を用意するというサービスです。ほかにも、提携会社と行っているリノベーションや管理が最安値のWi-Fiレンタル、あとはリネン業者と提携してリネンのセットアップも行っています。

某民泊サイトの調査では、全国の代行業者のなかで弊社の物件の平均レビューがもっとも高かったとあります。例えばairbnbでは、弊社が管理している民泊数のうち35%はスーパーホストで、ファイブスター獲得率は平均80%以上です。以前のairbnbのデータによると、海外の全ホストのスーパーホスト率は8%、日本では13%しかいませんでした。代行会社で複数のアカウント管理しているなかで40%というのはかなり高い数字です。ただ運営するだけでなく、ゲストにも満足いただき高いレビューを獲得することで「継続的な利益を生み出す運営」が可能となります。

どこのエリアを多く手がけていますか?

多いのは東京、大阪、京都です。今後は札幌や沖縄、福岡も増やしたいと思っています。現在、とある保険会社の管理子会社で「24時間駆けつけ対応サービス」を民泊向けに準備しているところがあり、実施パートナーという形で弊社と共同でサービスを作っているので、いずれオプションとして提供できるようになると思います。それがまとまれば、全国どこにいてもメッセージ管理から清掃管理、駆けつけ管理まで弊社でサポートすることができるようになります。

そのほか、民泊をすでに始めている方やこれから始めたい方へ、どのエリアであっても一貫したサービスが提供できるよう、物件紹介、家具、家電、備品リネン、通信インフラといったさまざまな企業と連携を進めサービス開発をしています。また、1年前まで連携していたのはairbnbのみでしたが、現在はagodaのほかHomeAway、booking.com、Expedia、その他中国系のOTAなどさまざまなプラットフォームと連携しています。

現在扱っている物件数や、ユーザー層について教えてください。

現在扱っている物件数は約200件で、利用ユーザーは月750組から800組、人数にすると2,500名から3,000名程度です。ユーザー層は20代から50代まで、若い女性から年配の男性までと幅広く、アジア人や欧米人など国籍もバラバラです。人数は4、5人のグループが多く、宿泊先でいうと都内では新宿と渋谷がもっとも人気です。

Zens独自のノウハウについて

高単価、高稼働率、高評価レビューを獲得するために、どのようなノウハウがありますか?

弊社では独自に開発しているソフトウェアやプロダクトで、高い収益性と利益率を実現しています。スケールが大きくなるにつれて人力で対応するには限界がありますので、弊社は創業当初からテクノロジーへの投資を積極的に行っています。現在、開発しているのは主に、物件と宿泊者を一括管理できるツール「zens app」と、見積りから仮予約までオンラインで完結させる「zens Home」です。

「zens app」は全国の物件と全世界からのゲストの問い合わせ、清掃タスクや収益管理などを一括で管理することができるツールです。こちらも、サンフランシスコの会社が提供する人工知能を用いた価格最適化ツールを活用し、専任の価格調整担当が随時確認をしています。稼働率に関しては高評価レビューとの相関が高いため、こちらも日々PDCを行っています。部屋の内装やリネン、清潔な清掃、ゲストとのメッセージ対応、その他ハウスルールやトラブル対応など、高レビューの裏側にはさまざまな細かいこだわりとサービスが必要です。

トラブル対策としてどのような取り組みをしていますか?

騒音、ゴミ出し、その他細かいトラブルなど、民泊ビジネスを始められるホストからは不安の声をいただきます。どのビジネスにもトラブルはつきものですが、トラブルは事前に対策を講じておくことが最も重要だと思っています。例えば、弊社は清掃管理についても自社ツールにて対応漏れが無いか、清掃後のクオリティは適切か、専任のスタッフが365日管理しています。また、多言語に対応したハウスルールやポスターを作成し、ゲストもホストも気持ちよく滞在できるよう心掛けています。また、トラブル対応専門の業者と提携し、万が一のトラブル発生時にも対処できるよう準備をしています。

ホストもゲストも、トラブルを起こしたいと思っている人は誰一人いません。民泊ビジネスは未成熟のビジネスですし、多種多様な利用者が存在するビジネスです。トラブル対応に関しては、弊社もより一層注意を払わなければいけないと思っていますし、現場でPDCを行い、トラブルが起きないような工夫をしています。

今後の展望

今後の取り組みについて教えてください。

住宅宿泊事業法施行後はマンスリーが鍵となります。従来のマンスリー検索サイトは、物件の管理会社の連絡先が書いてあるだけで、価格やカレンダーという情報はリアルタイムで見ることができません。そこで、今年はマンスリーの管理ツールや予約サイトをはじめさまざまなサービスを開始する予定です。

提供開始予定のマンスリー予約サイトでは、マンスリーサイトとAPI連携させることで、airbnbや今後始まる各OTAのカレンダーと同期できるので、都度さまざまなサイトにアクセスしなくても一括で管理できるようになります。マンスリーに関しても収益を上げるためにコストの最適化や内装パック、メッセージ代行といったサービスをすべてワンストップで提供する、いわば総合ソリューションです。また長期出張者、留学生、予備校生などのユーザーはこのサイトにくれば、最新版のカレンダーで空き情報を確認できるうえ、オンラインで仮申込ができるようになります。

弊社が目指しているのは、今後増えていくであろう民泊物件を提供する不動産オーナーにとって、もっとも利益を出せて信頼される総合プラットフォームになるというところです。引き続き代行は続けていますが、なかにはソフトウェアだけを使いたいという人もいれば、内装パックだけを使いたいという方もいるでしょう。大事なことはあくまでも物件に泊まるゲストにアプローチをすることです。

弊社のミッションは「日本と海外をつなげる」ことなので、とにかく日本を訪れる観光客と日本人をつなげたい。そのためには宿泊する人たちにオンラインとオフラインでアプローチをしたい。そのためにさまざまなツールやサービスを提供します。その一環としてマンスリー予約サイトを提供するというスタンスです。

Livhub読者へのメッセージ

長期的にビジネスを考えている方、かつ弊社のミッションに共感してくれる方に弊社のサービスをおすすめしたいです。複数の代行会社を比較することも良いと思います。例えば、収支シミュレーションを複数受けとった場合でもそれらを安直に信じるのではなく、ご自身でもairbnbの相場を調べたり、まわりの民泊ホストにヒアリングをするなど、第三者の意見を聞いたうえで代行会社を選んで欲しいと思っています。

インタビュー後記

海外と日本の橋渡し役となるべくビジネスを考案し挑戦してきた町田氏からは「未来の日本の姿を見据えたうえで、国を活性化していきたい」という強い熱意を感じました。「ある程度」ではなく「最大限」の結果を引き出すクオリティの高いサービスは、自らの手で市場を開拓してきた町田氏の経験やノウハウはもちろん、同じ熱意をもち真摯に取り組むZensメンバーの連携や、建築家や職人、カメラマンなど各分野のプロが力を合わせることにより実現していることがうかがえます。そのうえで清掃や収支計算、スケジュール等を自社ツールで一括管理し、価格最適化ツールを活用することで、無駄なく高い利益を生むシステムが成り立っています。現状維持に留まらず、世界の動向に合わせ今後も次々と新たなサービスを展開していくというZens。民泊運営代行業者の第一人者として、今後どのような拡がりを見せるのか注目です。

Zensの概要


会社名 Zens株式会社
本社所在地 東京都渋谷区千駄ヶ谷3-59-8原宿第2コーポ #308
サービス名 Zens
サービス内容 民泊運用代行サービス
URL http://www.zens.tokyo/

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Livhub 編集部

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