農家民泊とは農林漁業者が経営する宿のことで、旅行者などの宿泊者向け民泊の本格導入以前から各地方で取り組まれていた民泊形態です。
リモートワークの普及により都市部で仕事をする必要性が薄れてきたため、感染リスクも低く環境の良い地方に長期滞在するニーズが増えると考えられ、コロナ禍の影響で再び注目を浴びる可能性があります。
本記事では、農家民泊(農泊)を始める手順とメリット・デメリット、運営する際の注意点について解説していきます。
1.農家民泊(農泊)とは
農家民泊(農泊)とは、旅行者に農業や漁業などその地域の生活を体験してもらい、「農山漁村滞在型旅行」と呼ばれる民泊のことです。観光資源を増やして地方創生につなげるとの国の施策の下、農林水産省が支援事業を進めています。
農家民泊を始めるには、主に農林漁家民泊と農林漁家民宿という制度の2種類の方法があります。大きな違いは、農林漁家民泊は旅館業の許可を取らず、農林漁家民宿は旅館業の許可を得て宿泊業としておこなうという点です。
また、農林漁家民泊では営業方法が各地域の自治体協議会などで決められており、それに基づいて体験料という形で料金を徴収します。
一方、農林漁家民宿では宿泊料を徴収することができ、原則として営業方法の制限はありません。通常の民宿よりも規制が緩和されており、開業が容易になっています。
2.農家民泊のメリット・デメリット
農家民泊のメリット・デメリットにはどのような点があるのでしょうか。以下では、農林漁家民泊と農林漁家民宿を併せて説明します。
2-1.農家民泊のメリット
農林漁家民宿では、農山漁村余暇法の農林漁業体験民宿業の条件を満たすことで、各種法令の規制緩和を受けて旅館業法の民宿運営が可能になるメリットがあります。
主な緩和措置には、旅館業法上の客室面積制限の撤廃、建築基準法上の用途基準の緩和、消防法上の規制緩和などがあります。建築基準法上の緩和措置とは、同法の旅館に該当するような建物であっても構造上の基準を緩和させるものです。
消防法上の規制緩和としては、本来、消防用設備の設置が必要な建物であっても、これを不要とする措置が講じられています。(※総務省消防庁「民宿等における消防用設備等に係る消防法令の技術上の基準の特例の適用について」を参照)
このような規制緩和により初期投資費用が少なくなるメリットがあります。
2-2.農家民泊のデメリット
農林漁家民泊、農林漁家民宿のデメリットとしては、ゼロから投資を始めることを考えると、農林漁業のノウハウを身に付ける必要があり、ハードルが高いことが挙げられます。
また、不動産投資としては、人口減少による地価下落のリスクが高い地方での運営となるため、不動産の資産価値が下落するリスクも高めであることにも注意が必要です。
さらに、農林漁家民泊の場合は、宿泊料の徴収ができず、その地域の協議会等で定められた体験料の範囲での収入になる点もデメリットとなります。
このように、農家民泊をこれから開業するのであれば、農林漁業のノウハウがある場合や、すでに農家民泊に適した物件を所有している場合でないと、参入ハードルが高いデメリットがあると言えるでしょう。
3.農家民泊を始める手順
農家民泊を始める手順について、農林漁家民泊と農林漁家民宿の2種類に分けて説明します。
農林漁家民泊では、各地域の協議会など取りまとめている団体に問い合わせるところから始めることになります。農林漁家民宿では旅館業の許可を取って行うため、各都道府県の保健所をはじめとした関係部署へ問い合わせることになります。
3-1.農林漁家民泊の開業手順
まず、農林漁家民泊の開業を検討している地域の取りまとめ団体に問い合わせを行います。地域協議会や社団法人、NPOなど形態は地域によって様々です。団体の一覧は、農林水産省の運営する「農泊ポータルサイト」に掲載されています。
団体の指針によりますが、農林漁業の副業という位置づけになるため、本業が農林漁業であり、各種組合等の加入が条件の場合があります。
この場合、取りまとめ団体の指針に従って、体験プログラムを準備します。体験プログラムの内容も、地域の特性を生かしたものとなることから団体によって様々です。お客の受入れに関しても取りまとめ団体を通して行われ、料金は団体で決められた体験料を徴収します。
このように、農林業家民泊の手続きや運営方法はその地域や取りまとめ団体によって異なるといえます。農林業家民泊を検討しているエリアごとに確認してみましょう。
3-2.農林漁家民宿の開業手順
農林漁家民宿の開業の手順は次のように進められます。事前準備が整った段階で、行政の担当窓口に相談し、各種法令に適合するよう、許可申請の手続きを行います。
なお、農林漁家民宿として規制緩和の適用を受けるには、農林漁業者の確認を受けることが必要になる場合があります。
- 事前準備と相談
- 農林漁業者の確認
- 旅館業法の手続き
- 食品衛生法の手続き
- 必要に応じて関連法令の手続き
以下、詳細を解説します。
事前準備と相談
まず、開業する農林漁家民宿の経営スタイルやサービス内容などの計画を立てます。開業にあたり、各種法令の規制緩和の適用を受けるには、農山漁村余暇法に定める農林漁業体験民宿業の条件を満たす必要があります。
法令や参考事例を調べたり、農泊の支援団体に相談したりするなどして、情報を集めて参考にしましょう。
開業計画の目途が立ったら、旅館業法をはじめ開業に必要な各種関連法令の許可について、担当の行政窓口で事前相談を行います。相談時には、開業に利用したい建物の各階の図面、建物外観や周辺の写真などを持参するようにしましょう。
農林漁業者の確認
農林漁家民宿の規制緩和の適用を受けるには、原則として農林漁業家が経営することが条件になり、農林漁家であることの確認作業が必要になります。農業委員会や森林組合、漁業組合等から証明書類を発行してもらいましょう。
ただし、平成28年4月以降、緩和措置が実施されているため、都道府県によって取り扱いが異なる可能性があります。
旅館業法の手続き
農林漁家民宿の開業では旅館業法の許可手続きが必要となるため、事前審査の申請を最寄りの保健所で行います。なお、開業予定の建物の場所や面積によっては、関連法令の手続きが必要になります。
旅館業法では、建物の構造条件として、浴室、洗面設備、便所が適当な規模であることが求められます。条件に適合していない場合、改築工事が必要になることがあります。
食品衛生法の手続き
食事提供行う場合は、食品衛生法の飲食店営業許可手続きを行う必要があります。営業許可は、面積要件を満たす調理室や、食品衛生責任者の設置が条件になります。
なお、素泊まり形式や自炊形式、共同調理体験形式の農林漁家民宿では、飲食店営業許可は不要です。
必要に応じて関連法令の手続き
開業予定の建物の場所や面積によって、関連法令の手続きが必要になります。市街化調整区域にある建物の場合には都市計画法上の許可を受ける必要があるため、土木事務所等で手続きをおこないます。
建物の床面積が200㎡以上の場合は、建築基準法上の旅館としての基準に適合するよう、各種構造上の要件を満たすことが必要になります。この場合も、土木事務所等で手続き行います。
建物の床面積が50㎡を超えるか、建物の半分を超える場合は、消防法上の防火規制に適合させる手続きが必要になります。こちらは最寄りの消防署等で手続きを行いましょう。
いずれの場合にも、法令に適合させる際に改築工事が必要になることがあります。これらの手続きは、旅館業法の許可申請と並行して進めていくと良いでしょう。
4.農家民泊の注意点
農家民泊をおこなう上では、安全管理面の配慮が最大の注意点となります。
体験サービスを提供する際、農機具や電気柵による事故を予防する措置、危険な動植物の被害対策などには配慮が不可欠といえます。また、農家民泊では立地面からも自然災害リスクが高いため、そのような配慮も必要になります。
食事の提供をおこなう場合には、食物アレルギーや食中毒リスクへの配慮も重要です。そのほか、施設の安全管理、個人情報漏洩リスクなど、運営に対する規制が緩和されている分、農家民泊の運営にはより注意を払う必要があるといえるでしょう。
まとめ
農家民泊は、旅行者にその地域の農林漁業の生活を体験してもらう滞在型の旅行のことをいいますが、農林漁家民泊と農林漁家民宿の2種類があります。農林漁家民泊は旅館業法の許可が不要であるのに対し、農林漁家民宿は旅館業法の許可を受けて運営する形態になります。
農林漁家民泊の手続きは地域ごとの協議会などの取りまとめ団体を通して行います。一方の農林漁家民宿では、旅館業の許可申請は保健所に対して、関連法令の手続きについてはそれぞれ担当部署に対して行います。
農林漁家民宿では民宿運営の規制緩和の適用を受けられるため、初期投資が抑えられるメリットがあります。規制が緩和されている分、安全面への配慮には十分注意して投資を行うことが重要です。
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