放置してある空き家があり、民泊施設として活用できないか、と検討している方も多いと思います。
しかし、民泊投資が空き家にどのような影響をもたらすのか、そもそもどのように民泊を始めればよいのか、分からない方も少なくないのではないでしょうか。
本記事では、空き家で民泊を始めるメリット・デメリットを整理し、特に法令上踏まなければならない手順と注意点について解説していきます。
1.空き家を放置すると様々なリスクがある
空き家を放置しておくと、様々な問題が生じる可能性があります。最低限の維持費、管理費がかかってきます。空き家を所有しているだけで固定資産税が毎年かかり、定期的な清掃、庭木や外構の手入れなどの管理にも費用がかかります。
こうした手入れを行っていたとしても、経年による劣化は避けられません。空き家の資産価値は徐々に低下していきます。外観の悪化、害虫・異臭の発生、不法投棄などにより地域環境への悪影響を与えかねません。極端な場合、空き巣被害や放火などの犯罪に巻き込まれる可能性もあります。
2015年には空き家等対策の推進に関する特別措置法が施行され、特定空き家等に指定されると、取り壊し命令の対象となることもあります。
このような空き家を放置すると発生する問題と比較して、空き家を民泊施設として活用すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。また、反対に、どのようなデメリットがあるのでしょうか。
2.空き家を民泊施設にするメリット
民泊は、民家の空き室を宿泊用として貸し出すサービスです。Airbnbなどのインターネットによるマッチングサービスの登場で世界的に注目されました。
現在はコロナ禍により観光業全体が不透明な状況が続いていますが、コロナ前までは近年増加しているインバウンド宿泊ニーズとオリンピックの宿泊ニーズを背景に期待が高まっている状況でした。ウィズコロナの現在、リモートワークやワーケーションの普及・浸透などにより、コロナが落ち着いた後には、民泊需要も回復・向上していくことが期待されています。
また、2018年6月の住宅宿泊事業法の施行によって、都道府県知事への簡易な届出で運営ができるようになり、より参入しやすくなっています。
空き家を民泊施設として活用すると、主に次のようなメリットがあるといえます。
- 空き家から収益を得ることができる
- 初期投資を抑えて宿泊業をおこなうことができる
- 空き家の資産価値を高めることができる
- 観光産業活性化の一翼を担うことができる
以下で、それぞれについて詳しく説明していきます。
2-1.空き家から収益を得ることができる
放置しておくと様々なリスクのある空き家から、宿泊料という収益を得ることができるのが最大のメリットといえます。
空き家から収益を得る運用方法は、他にも普通賃貸経営やシェアハウスなどの事業経営があります。立地や宿泊料単価などによりますが、民泊施設として運用する方法は、これらと比較して収益性は高く、ハイリターンであるといえます。
2-2.初期投資を抑えて宿泊業をおこなうことができる
通常、民泊をゼロから始めるのであれば、初期投資として物件取得からおこないます。これに対して、所有している空き家を改修して民泊を始めるのなら物件取得費用はかからず、比較的少額なリフォーム費用と設備費用で民泊を開業できることになります。
また、住宅宿泊業法の民泊は、旅館業法の簡易宿所よりも、宿泊業をおこなうことができる条件が緩和されています。その分、改修にかかる費用も少額で済むことになります。
空き家を民泊施設にして住宅宿泊業法の民泊を開業すると、不動産を新規で取得して開業するよりも大きく初期投資を抑えて宿泊業をおこなうことができるといえます。
2-3.空き家の資産価値を高めることができる
民泊へ転用することで、経年劣化により低下する空き家の資産価値を高めることができる可能性があります。
民泊の許可や届出をおこない、運営も成功して収益性が高いことが証明されれば、その分、資産に付加価値が加わります。宿泊業を適法におこなうことができることと、実際の宿泊料収益をベースに不動産の価値を算定し、収益物件として売却することも可能になります。
2-4.観光産業活性化の一翼を担うことができる
観光客も、割安な宿泊料金で宿泊でき、ホストと触れ合う体験ができる民泊を求めています。特に、外国人観光客を呼び込むことのできる民泊施設の増加は、その施設の周辺地域のみならず、わが国全体の観光産業の規模拡大にもつながり得るといえます。
このように、観光産業活性化に貢献できる意義もあるでしょう。
3.空き家を民泊施設にするデメリット
空き家を民泊施設にするのは、投資面と社会的意義の面からメリットがあるといえます。他方、民泊にはデメリットも少なからずあります。主に、次のようなデメリットが挙げられます。
- 景気等の影響を受け、収益が変動することがある
- 宿泊業特有のトラブルが生じるリスクがある
- 住宅宿泊業法の民泊は年間稼働180日制限がある
以下で、詳細を説明します。
3-1.景気等の影響を受け、収益が変動することがある
民泊の収益の源泉は、宿泊客による宿泊料です。今回のコロナショックや景気等により、宿泊のニーズが落ち込んだ場合、収益が減少する可能性もあります。
空き家を民泊施設にする場合は、元々所有していた物件で初期投資が少ないため、収益が減少してもキャッシュ・フローが大きく赤字になるということは考えにくいといえます。
それでも、リフォーム費用のローンを組んでいる場合などは、返済が厳しくなるおそれもあります。あらかじめ、収益が落ち込むことも予想して、余裕のある資金計画を立てて民泊を行うことが大切です。
3-2.宿泊業特有のトラブルが生じるリスクがある
宿泊業では、不特定多数の宿泊客を受け入れることになります。宿泊客の中には、チェックイン・チェックアウトの時間にルーズであったり、お酒を飲んで大騒ぎをして近隣に迷惑をかけたりするというトラブルもあります。
また、備品の破損、窃盗などの事態にも巻き込まれる可能性もあります。このような、宿泊業特有のトラブルにも経営者として判断、対応を迫られることになります。
外国人宿泊客のトラブルに備えて、部屋の利用方法についての説明書は、あらかじめ細かく、多言語対応のものを用意しておいた方がいいでしょう。禁止事項については、宿泊客がわかりやすいようにしておくことが重要です。
3-3.住宅宿泊業法の民泊は年間稼働180日制限がある
住宅宿泊業法の民泊では、年間稼働180日の制限があります。周辺地域のイベントや観光シーズンに合わせて稼働したり、民泊稼働しない期間、他目的に転用したりするなどのビジネス上の戦略が必要になるといえます。
旅館業法の簡易宿所では、この制限はありませんが、その分、許可要件が厳しくなります。
4.空き家を民泊にする手順
空き家を民泊にする際、まずはどの法令に基づいて運営をおこなうか、判断しなければならないといえます。空き家の立地によっては、選択肢は制限されます。
運営形態が決まったら、法令に適合させるように、当局に許可申請・届出手続きをおこないます。許可や届出が完了したら、運営準備となります。
次のような手順となります。
- 民泊の形態を決める
- 民泊の許可申請・届出をおこなう
- 民泊の運営準備をおこなう
以下で、それぞれの内容を詳しく説明していきます。
4-1.民泊の形態を決める
民泊の形態には、大きく分けて、3つの形態があります。それは、住宅宿泊事業法による民泊と、旅館業法による民泊、特区民泊です。
住宅宿泊事業法による民泊は、一般住宅であっても都道府県知事等へ届出という簡便な手続きで宿泊事業が可能になる制度です。
多少の追加設備条件はありますが、基本的には、台所、浴室、便所、洗面設備があれば、年間180日以内で住宅宿泊業が可能になります。家主居住型と家主不在型があり、家主不在型の場合は、住宅宿泊管理業者に業務委託をする必要があります。
これに対して、旅館業法による民泊は主に簡易宿所として都道府県知事等の営業許可を得て開業されます。年間稼働日制限はありませんが、営業可能地域が限られており、設備についても客室面積要件(原則33平米以上、宿泊者10人未満の場合3.3平米/人)や建築基準法、消防法などの規制を受けることになります。
特区民泊は、地域限定の旅館業法適用除外措置による民泊です。東京都大田区、大阪府一部地域、北九州市などが対象となっています。(※2020年9月時点)
近隣住民への周知、トラブル対応措置や2泊3泊以上の滞在が条件とされており、その他の条件は、各自治体によって定められています。特区民泊を運営するには、自治体からの認定を受けることが必要です。
4-2.民泊の許可申請・届出をおこなう
民泊の形態を決めたら、それぞれの形態に応じて許可申請・届出をおこないます。住宅宿泊事業法の場合は、各都道府県の担当窓口に届出をおこないます。観光担当や衛生担当など、部署は自治体によって様々です。
旅館業法の場合は、原則として、各都道府県の保健所に許可申請をおこないます。実際の許可申請の前に事前相談を求めている自治体も多いため、各自治体の窓口に問い合わせをしておきましょう。
特区民泊の場合は、各自治体によって窓口が異なります。自治体のホームページなどで担当部署を確認し、認定申請手続きをおこなうことになります。許可申請・届出の際、行政機関との調整により法令に適合するためのリフォームを行うことになります。
住宅宿泊事業法の民泊
住宅宿泊事業法の民泊の届出をする場合の手続きを大まかに紹介します。
届出に必要な事項を確認し、必要書類をそろえ、観光庁の民泊制度ポータルサイトか、空き家の所在する地域の担当窓口に届出の申請をおこないます。
届出には、住宅の図面が必要です。台所・浴室・トイレ・洗面所設備の位置、住宅の間取り・出入口、各階の別、居室・宿泊室・宿泊者の使用する部分の床面積、非常用照明器具などの安全設備の内容、が記載されている図面を準備します。
また、消防法令に適合していることの通知書が必要になります。民泊施設として運営するとなると、防火管理者の選任等が必要になることがあります。
実際に届出をする際、必要になる書類は、主に次のようなものになります。
- 届出書
- 住宅の登記事項証明書
- 住宅の図面
- 消防法令適合通知書
- 欠格事由に該当しないことの誓約書
- 住宅宿泊管理業者から交付された書面の写し(管理委託する場合)
- 法人の定款、法人の登記事項証明書(届出者が法人の場合)
これらの必要書類は各自治体によって異なるため、事前に自治体ホームページや窓口で確認しておきましょう。
旅館業法の民泊
民泊(旅館業法の簡易宿所)開業を考えている施設の図面を用意して、都道府県の窓口に相談に行きます。この際、建築基準法への適合状況、消防法への適合状況の確認を求められます。
営業許可を得る手続きについては、基本的に保健所に申請することになります。保健所は、施設が旅館業法に定める構造設備基準に適合しているかどうか、立入検査をおこないます。
風呂や換気・採光・排水設備、フロント(各自治体の条例によって上乗せ規制していることがあります)などの設備について検査し、許可が得られたら、営業を始めることができます。
主な必要書類として、東京都を参考にすると次のようなものになります。
- 旅館業許可申請書
- 建物半径300メートル以内の見取図
- 建物の図面(配置図、各階平面図、正面図、側面図)
- 土地・建物登記事項証明書
- 建築物検査済証の写し
- 法人の定款又は寄付行為の写し(法人の場合)
住宅宿泊事業法の民泊と同じく、これらの必要書類は各自治体によって異なるため、事前に自治体ホームページや窓口で確認しておきましょう。
特区民泊
特区民泊では、各地方自治体によって認定申請手続きが多少異なります。たとえば、東京都大田区の特区民泊の場合、生活衛生課に施設の図面を持参して相談にいき、その後、建築審査課、消防署への相談、近隣住民への説明を経て、認定となります。
申請の際の必要書類は次のようになります。
- 申請書
- 住民票の写し(個人の場合)または、法人の定款又は寄付行為の写し(法人の場合)
- 施設の構造設備を明らかにする図面
- 消防法令適合通知書
こちらも各自治体によって求められる書類が異なる可能性があります。実際に申し込む前に必要書類を確認し、その後準備を進めると良いでしょう。
4-3.民泊の運営準備をおこなう
法令上の申請・届出手続きが完了したら、いよいよ実際の運営準備となります。家具・寝具・アメニティのセットアップをおこない、民泊仲介サイトに登録します。
多言語対応のアクセスガイドやハウスマニュアルの作成も怠らないようにしましょう。運営業務を委託するなら、民泊運営代行業者との契約をおこないます。
準備が整い次第、運営開始となります。
5.注意点
空き家を民泊施設にするにあたっては、次のような注意点があります。
- 上乗せ条例規制
- 建築基準法の用途地域制限
- 民泊の報告義務
- 確定申告における注意点
- 初期費用が回収できない元本割れのリスク
5-1.上乗せ条例規制
住宅宿泊事業法では、届出を出して基準を満たせば、地域を問わず誰でも民泊を運営できることとされていますが、各地方自治体では、上乗せ条例を制定して規制している場合があります。
このような自治体では、民泊を行うことのできない地域があったり、近隣住民への周知を求めるなどの行為規制を設けたりしていることがあります。民泊投資を検討する前に条例規制を確認するようにしましょう。
5-2.建築基準法の用途地域制限
旅館業法の簡易宿所は、空き家の立地によって法令規制を受けます。建築基準法では、都市計画制度に基づいて、第一種住居専用地域および第二種住居専用地域では、旅館業用途の建物を建てられないこととしています。したがって、このような地域では、旅館業の民泊は営業できません。
5-3.民泊の報告義務
住宅宿泊事業法による民泊では、年間を通して2カ月ごとに、宿泊させた日数、宿泊者数、延べ宿泊者数、国籍別宿泊者数の内訳、を都道府県知事に報告するよう、義務付けられています。
5-4.確定申告における注意点
民泊による所得は、原則、雑所得として所得税の確定申告が必要となるので注意が必要です。
雑所得の計算上、民泊事業をおこなう際に支出した費用を必要経費として収入から差し引くことができます。
水道光熱費や固定資産税など、業務用と生活用の費用両方が含まれているものについては、業務用部分のみを合理的な方法により按分して経費に算入することになります。
5-5.初期費用が回収できない元本割れのリスク
空き家を民泊施設に転用する場合、不動産の取得費用がかからないため比較的少ない資金でも開業できる可能性があります。
しかし、上述したようなデメリットや注意点も多く、想定した収入が得られない可能性もあります。リフォーム費用などの投資金や手続き・準備にかかる手間をかけて民泊運営を開始しても収益が想定通りに生まれず、元本割れが起きてしまうリスクには注意が必要です。
元本割れのリスクを低減するためには、民泊への転用を実施する前に民泊運営に適したエリアであるか、宿泊者の推移や競合となる宿泊施設の動向などを確認し、慎重に検討することが重要となります。
また、民泊以外の不動産活用方法を模索したり、売却した場合の売却益と比較しながら進めておくことも検討しておきましょう。様々な手段と並行して比較することで所有している空き家のエリアに対する理解が深まり、よりよい活用手段を見つけられる可能性が高まります。
不動産活用を検討するのであれば、最大7社から不動産活用の提案が受けられる「HOME4Uの土地活用サービス」、売却を視野に入れるのであれば複数の不動産会社による売却査定が同時に受けられる「リガイド」や「イエウール」などの不動産一括査定サービスがあります。
このようなサービスの利用も検討し、民泊へ転用する前に空き家の活用手段について慎重に検討してみましょう。
まとめ
空き家を民泊施設にするのは、投資面・社会的意義の側面からメリットがある反面、ハイリスクであるといえます。
また、住宅宿泊事業法の民泊は、法令規制が少ないものの年間180日の営業日制限があります。旅館業法の簡易宿所では営業日制限がない一方、法令規制が厳しいといえます。
本記事を参考にして、所有している空き家を民泊施設にする際には、収益のシミュレーションもおこない、慎重に判断していただきたいと思います。
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